湿式粉砕機(ビーズミル)を用いたメカノケミカル処理のご紹介
はじめに
メカノケミストリー (Mechano-Chemistry)は、物質に粉砕などの機械的応力を作用させた際の結晶構造の変化によって生じる物理化学的性質の変化を取り扱う学問分野です。 特に、物質そのものや周囲の物質との相互作用による物理・化学的変化をメカノケミカル効果といいます。メカノケミカル効果を得る手法として、ボールミルによる粉砕処理が応用できることから、様々な研究機関や企業で検討が行われています。今回、湿式粉砕機(ビーズミル)である「ハイビスミル」を用いたメカノケミカル処理の事例をご紹介いたします。
「ハイビスミル」を用いたメカノケミカル処理の紹介
半導体製造工程や製鉄等金属を扱う製造所からは多量の酸性廃液が排出されます。酸性廃液には鉄をはじめ多量の金属成分が含まれますが、現状は、アルカリ溶液による中和の後廃棄されています。中和処理は、多量の薬品が用いられるため、環境に配慮した処理方法が求められています。さらに、廃液中の金属成分を回収することができれば、薬品使用量の削減および金属資源の再利用ができることから、循環型社会への貢献が期待できます。
廃液に多く含まれる鉄から得られる有価物の一つにマグネタイト(磁鉄鉱)があります。マグネタイトは、磁性トナーの原料等に使用されています。マグネタイトは通常直接沈殿法やゲーサイト法、加水分解法等より製造されますが、酸性ガスの利用や水素を用いた還元熱処理等が行われ多量の薬品・熱エネルギーが必要です。
一方、メカノケミカル効果を利用することで、多量の薬品・熱エネルギーを用いず、酸性溶液(硝酸鉄水溶液)からマグネタイトを合成できる可能性があります[1]。さらに、マグネタイトを合成するうえで、硝酸鉄水溶液が中和されるため、中和用薬品が不要となり環境に配慮した処理方法となります。
ここでは、当社湿式粉砕機(ビーズミル)「ハイビスミル」を用いてメカノケミカル効果による酸性溶液の中和およびマグネタイト生成について実験を行いました。硝酸鉄水溶液(硝酸鉄濃度20wt%)を調製後、「ハイビスミル」に投入、バッチ運転にて実験を行いpHの推移を調査しました。その際、処理により得られた黒色スラリーを洗浄、遠心分離、乾燥することで処理粉末を回収し、X線回折(XRD)によって結晶構造の同定を行いました。
処理物pHの経時変化をみると、処理開始後30minでpHが1.3から6.1に変化しており、中和反応が進んでいることが分かります。
また、処理物の色も運転初期で著しく変化していることが分かります。10~30minでは赤みがまだ残っていますが、45min以降は黒色に変化してきています。60min処理して得られた粉末は濃い黒色であり、磁石を近づけると引き寄せられることも確認できました。
そこで、XRDを用いて得られた粉末の結晶構造を評価しました。処理開始10minではほぼピークは確認できなかったもの、時間経過により徐々にゲータイト[α-FeO(OH)]のピークが現れています。その後、45minからゲータイトのピークが減少し、マグネタイト[Fe3O4]のピークに変化しています。60minで回収した粉末の色や磁性を帯びることからマグネタイトが生成されたと考えられます。
当社湿式粉砕機(ビーズミル)を用いたメカノケミカル処理として、酸性溶液の中和およびマグネタイト生成をご紹介しました。他にもメカノケミカル効果を利用した様々な処理が期待できますので、是非お気軽にお問い合わせください。
参考)
[1] 釘宮公一ら,粉体工学会研究発表会2018 P.158-59 機械的エネルギーによる化学反応促進:酸廃液の処理プロセスの検討,(2018)
機器導入に関してのご相談から専門的な技術セミナーまで
様々なシチュエーションに対応します。
技術情報には掲載していない情報もお伝えすることができますので、
当社機器にご興味を持たれた方は是非お問い合わせください。