ビーズミルのL/Dとスケールアップリスク

はじめに

当社のビーズミルはL/Dが小さいことが大きな特徴です。ビーズミルのL/Dとスケールアップリスクとの関連性についてご紹介します。

L/Dとは?

 ビーズミルのL/D(読み方:えるばいでぃー)とは、L=タンクの長さ/D=タンク径のことを示しています。横型ミルの場合、L/Dが大きいとタンクが横長の形状となり、L/Dが小さいとタンクが縦長の形状となります。

ビーズ小径化の影響

 2000年以前ではL/Dの大きなビーズミルが一般的でしたが、どうしてL/Dが大きいビーズミルでも問題にならなかったのでしょうか。それはビーズミルで使用されるビーズ径が関係しています。当時、一般的にビーズミルで使用されていたビーズは、2mm~0.5mm程度でした。その後、電子機器の小型化、顔料の微細化などが年々進み、それまでの原料の粒子径よりも更に細かい粒子が求められるようになりました。それにより、0.3mm以下のビーズを使用する必要性が高まり、現在広く普及しているL/Dの小さなビーズミルが開発されました。
 ここで、L/Dの大きなビーズミルで小径ビーズを使用した際に生じる問題を考えてみます。仮に今まで2mmのビーズを使用していたビーズミルで0.2mmのビーズを使用した場合を考えてみると、ビーズ径は1/10となる為、圧力損失ΔPはコゼニーカルマン(Kozeny-carman)の式より、100倍となります。よって下図のように、L/Dの大きいミルではビーズ径が小さくなるほど、排出側へのビーズの偏りが生じ、エネルギーが極端に集中するため、過剰な力による再凝集が避けられない状況になります。また、ビーズの分離方法として遠心分離方式を採用している場合には、排出側への強い押し込み力により、ビーズの流出などが懸念されます。
 それに比べて「SCミル」や「MSCミル」のようなL/Dの小さいビーズミルでは、排出側へのエネルギーの偏りを抑えることが出来るので、ビーズ小径化の影響を抑えることが出来ます。さらに「SCミル」に関しては、スラリーの流れ方向とビーズに掛かる遠心力方向が同方向(一般的なビーズミルは、スラリーの流れ方向とビーズに掛かる遠心力方向が垂直方向)になるため、ビーズの偏りが非常に発生しづらい形状となっています。

スケールアップリスク

 L/Dの大きさとスケールアップのリスクに関して説明します。以下図は横型ミルの断面図とビーズにかかるエネルギーを示したものです。
スラリーはポンプによって矢印の方向へ押し込まれ、ビーズは反対側にある分離装置で分けられて、スラリーのみが排出される構造です。断面図の下の図はビーズにかかるエネルギーを示しており、排出側にビーズが押し込まれ、強いエネルギーがかかっていることを示しています。
 左のミルを2倍のスケール(右)にしたらどうなるでしょうか?粉砕能力はビーズ量で決まりますので、その体積に比例します。その為、相似形の場合(基本的にスケールアップの場合、幾何学的相似形で形状を決定する)、体積は直径の3乗で計算できますので、ビーズミルの内径が2倍ならば8倍になります。同等の処理時間で同等の粒子径を得るには、小型機と大型機でスラリーのミル内滞留時間を合わせます。よってスラリーは8倍の量に設定します。
しかし、スラリーが通過する面積は直径の二乗でしか増えないので流速は2倍になります。また通過する長手方向の長さも径比つまり2倍ですので、流速アップと通過距離が長くなることで通過抵抗は4倍となり、ビーズの排出側への押し込み力も4倍ということになります。つまり径比の2乗で押し込み力が上がってしまい、これは下記ダルシーの法則からも容易に理解出来ます。

このように大型化するほどビーズへかかる力が大きくなります。そのため、L/Dの大きなビーズミルのスケールアップは非常に難しく、小型機で運転出来ていた処理が大型機で再現出来ないトラブルも散見されます。当社ではSC650L型ミルにてφ0.5mmビーズを500kg使用し、300L/minの大量循環で運転している実績もあります。L/Dの小さい当社のミルだからこそ実現できた実績です。また、このときのスケールアップはボール量が約1/25のSC220L型からのスケールアップで、ボール量比に見合った、約25倍の生産能力を達成しています。当社のスケールアップの考え方については、下記を参照ください。実際にはL/Dだけでなく粉砕室の形状やロータの形状も重要ですので、改めてご説明したいと思います。

技術情報 粉体講座 ビーズミルのスケールアップ

最後に

1997年に開発されたSCミルはL/Dが1/3と非常に小さく、当時一般的なビーズミルのL/Dが2/1~5/1であった中、特徴的なビーズミルでした。小径ビーズが安定的に使用出来、スケールアップが容易なことから様々な分野で採用されてきました。また2005年には0.1mm以下のビーズを使用出来、ビーズとスラリーの遠心分離機構を搭載したMSCミルを開発しました。MSCミルもL/Dが1/3程度のビーズミルになります。

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