アトライタとアルケミの比較
はじめに
乾式で利用される「アトライタ」は、ボールに強力なエネルギーを与えられる、メカノケミカルやメカニカルアロイング処理が得意な媒体撹拌型ミルです。それらの処理はボールミルや遊星ボールミルでも行うこともできますが、大型機へのスケールアップが可能であり、処理時間が短いなどの優位性から「アトライタ」が広く普及しました。しかし、ランニングコストの低減、省エネルギー化の流れから「アトライタ」に変わる粉砕機が求められるようになりました。そこで当社では、比重が大きい材料のときに「アトライタ」で問題となっていた処理物の偏りやエネルギー分布の偏りを解消した、高効率で高エネルギタイプの「アルケミ」を開発しました。今回は「アトライタ」と「アルケミ」の違いについて、シミュレーション結果や処理実績を紹介します。
構造
「アトライタ」と「アルケミ」の構造の違いを説明します。
「アトライタ」は、円筒状の粉砕タンクとボールを攪拌するアームから構成される機械です。粉砕タンクに材料と粉砕媒体であるボールを仕込み、アームでボールを強制的に攪拌することで粉砕が進みます。粉砕には、ボール同士やボールと材料の衝突、せん断作用などが寄与しています。粉砕の他にも、メカノケミカルやメカニカルアロイングなどの反応および合成にも応用されています。なお、アトライタは容器回転型ボールミルの約10倍、遊星ボールミルと同等の能力があるとされています。
しかし、「アトライタ」で比重の大きい材料を粉砕すると、粉砕タンクの槽底に処理物の偏りが生じ、不均一な粉砕になることがありました。また、ボールの自重も影響し底部にエネルギーが多くかかるため、粉砕室内部のエネルギーの偏りも生じていました。そこで開発された粉砕機が「アルケミ」です。粉砕タンクを横型にし、ボールを撹拌するアームを最適化することで、「アトライタ」で問題となっていた材料やエネルギーの偏りを改善しています。横型の優位性については、離散要素法(Discrete Element Method,DEM)によるシミュレーションで検証を行ったので、結果を以下紹介します。
シミュレーション
早稲田大学 所研究室との共同研究にて、DEMシミュレーションを用いてアルケミとアトライタの比較を実施しました。まず、シミュレーション結果と比較するために、実機を用いて珪砂の粉砕テストを行いました。粉砕性能については下図の通り、「アトライタ」より「アルケミ」の方が粉砕性に優れていることが示されています。
一方でシミュレーションによると、ボールの衝突エネルギーは「アトライタ」の方が「アルケミ」よりも高い結果になりました。一般的にボールミルによる粉砕は、ボールの衝突エネルギーが高いほど粉砕性能が高い傾向にあるので、反する結果となっています。 しかし、「アルケミ」は効率の良いボールの動きにより、「アトライタ」より高い粉砕性能を得ています。下図は、粉砕タンク底部のエリア(タンク高さを100%として、底部から20%の範囲)から移動(放出)するボールの割合を示しています。「アルケミ」は「アトライタ」よりも、底部のボール移動が多く、ボールの運動速度も大きいことがわかります。したがって、「アルケミ」はタンク内でボールが効率良く混合されることで、衝突エネルギーが抑えられ、均一なエネルギー伝達とより良い粉砕プロセスが実現することが示されています。
出典:Materials Transactions, Vol. 59, No. 3 (2018) pp. 488 to 493
処理例
運転条件(タンク容量、回転速度、ボール充填率、投入原料量等)を同条件とし、「アルケミ」と「アトライタ」で金属粉の粉砕性能を比較しました。金属粉は扁平化を経て微細化するものもありますが、今回の金属粉は扁平化はせずに微細化するものです。下図は、粉砕時間に伴う平均粒子径(d50)の推移です。どちらの金属粉においても「アルケミ」は「アトライタ」と比較して粉砕スピードが約3倍良好で、「アルケミ」の粉砕能力の高さが確認できました。粉砕性能の差については、金属粉の比重が重いことにより、「アトライタ」ではタンク底部に材料が偏りやすく、また粉砕エネルギーも「アルケミ」に比べ不均一であったことによるものだと考察することが出来ます。
「アトライタ」と「アルケミ」の特徴
「アトライタ」と「アルケミ」の特徴を簡単に纏めました。「アルケミ」は比重が大きい金属などの粉砕やメカニカルアロイングでは、非常に高いパフォーマンスを発揮します。しかし、比重の小さい材料に対しては、「アトライタ」と同程度の処理能力しか発揮できない場合があります。そのため材料によっては、「アトライタ」の方がコストメリットがある場合もあります。
アトライタ | アルケミ | |
タンク | 縦型 | 横型 |
アーム形状 | 棒状アーム | 棒状アーム |
アーム配列 | スパイラル(小型機は直交) | 直交または特殊スパイラル |
軸封 | 簡易密閉(密閉も可) | 密閉 |
モータ動力 | 小さい | 大きい |
能力(比重 大) | ― | アトライタの約3倍 |
能力(比重 小) | ほぼ同等 | |
スケールアップ | ボール比より若干低下 | ボール比 |
価格 | < |
機器導入に関してのご相談から専門的な技術セミナーまで
様々なシチュエーションに対応します。
技術情報には掲載していない情報もお伝えすることができますので、
当社機器にご興味を持たれた方は是非お問い合わせください。